平成25年3月号
争続・家庭裁判所調停・審判の現実
最近、お客様から、相続人の間で遺産分割協議がまとまらない場合(争族)、家庭裁判所へ行けば何とかなるのでしょ!との相談がありました。ところが世の中そんなに甘いものではありません。そこで今月号では、世間にあまり知られていない「争続・家庭裁判所調停・審判の現実」についてお話ししたいと思います。
◆遺産分割協議とは・・・
遺産分割協議は、相続人全員が納得して遺産分割協議書に署名・押印してはじめて成立しそれぞれの相続人が一通ずつ保管します。ところが、ひとりでも納得しない相続人がいた場合は、遺産分割協議は不成立となり、家庭裁判所の「調停」に話し合いの場を移します。
◆家庭裁判所の調停とは・・・
調停とは、家庭裁判所内で行う話し合いのことで、第三者(調停委員)が間に入った方が早く解決することが期待されます。ただし、裁判ではありませんから強制力はありません。
話し合って合意できる道を探し合意事項を書面(「調停調書」といいます)にまとめます。これは裁判の確定判決と同じように強い効力をもちます。ただし、ひとりでも納得しない相続人がいた場合、前述の遺産分割協議と同様に、調停は不成立となります。調停による相続人同士の話し合いには期限がありませんので、数年かかってようやく調停が成立する場合もあります。
調停の申し立ては、調停を希望する相続人のひとり、もしくは何人かが、他の相続人全員を相手方として家庭裁判所に申し立てるものです。遺産分割の場合、裁判所へ直接支払う費用として、申立書に貼付する印紙代(被相続人ひとりにつき1200円)、連絡用の郵便切手代などですが、遺産分割事件の当事者(相続人など)及び遺産の範囲と評価を確定するための必要な証明書(除籍謄本、戸籍謄本、住民票、不動産登記簿、固定資産評価証明書、預金残高証明書など)の取り寄せ、弁護士を起用する場合の報酬などの費用は各相続人の負担となります。
話し合いの“調停役”となるのは、裁判官(家事審判官)と民間から選ばれた調停委員2人で構成される「調停委員会」です。調停は、この「調停委員会」の立会いのもとで行われます。
調停の雰囲気としては、裁判所の小さな室にテーブルを挟んで調停委員と向かい合って座ります。申立人と相手方は別々の待合室で待機し、調停委員2人がそれぞれの相続人の主張を個別に聞いて双方の意見を調整し助言をしながら合意点を探ります。調停のペースは月に1回ぐらいのペースで開催されます。
初回は、家庭裁判所から各相続人へ郵便で日時を知らせてきます。2回目からは、調停委員、相続人の都合をある程度踏まえながら日時を決めます。1回の調停の時間は約2時間ぐらいです。調停は内容にもよりますが、通常3回以上はかかると思われます。月1回ペースで3ヶ月以上の長期に及びます。
ここで「調停」での留意点をまとめてみましょう。
① 裁判所には、出席しない相続人を強制的に出席させる権限はありません。また、弁護士を代理出席させることができます。
② 調停期日に回数や期間の制限はなく延々と続くことがあります。
③ 裁判所は、相続人に財産を開示するよう促すことはできても命令はできません。また、財産の調査もしてくれません。
④ 調停委員会は、各相続人の意見調整や助言をします。 時には、遺産の分割案を提案してくれるケースもあります。
以上、調停について解説してきましたが、調停が不成立に終わると自動的に「審判手続き」に移行します。
◆家庭裁判所の審判とは・・・
調停でも、協議が整わない場合(不成立)は、調停の申立の際に、「審判」の申立があったものとみなして自動的に「審判手続き」へ移行します。
審判とは、裁判官が分割の割合を強制的に決定することで、この決定のことを審判といいます。
裁判官は、遺産に属する物、または権利の種類・性質・各相続人の年齢・職業・心身の状態・生活の状況など、いろいろな側面から事情を考慮して審判します。
これらは、家庭裁判所の調査官が調査します。その後、裁判官が、当事者から提出された書類や調査官の調査結果等に基づいて公平を期して審判(遺産分割の割合)を下します。
① 審判に不服がない場合
審判が下りてから2週間が過ぎた時点で審判が確定します。 これは確定判決と同じ効果があり、家庭裁判所へ申し出ることにより、履行勧告・履行命令をすることができます。 相手方が履行しないときは、強制執行の申立をすることもできます。
② 審判に不服がある場合
審判が下りてから2週間以内に、高等裁判所に対して、「即時抗告」の申立てを行い、裁判上での争いに移行します。
尚、家族・親族間の争族(トラブル)の場合は、いきなり裁判を起こすのではなく、「調停」を経た後でなければ、訴えを提起することはできません。これを「調停前置き主義」といいます。
裁判では公開が原則ですから誰でも傍聴することができます。家族関係のトラブルは、身内のことを公開の訴えをする前に、先ずは相続人による「話し合い」によって解決を図った方が良いという配慮があるための調停前置き主義なのです。
◆遺産分割が確定するまでの流れ・・・
以上、長々と述べてきましたが、これらの流れをチャートにすると下記の通りです。
最悪のケースとして、遺産分割協議 もの別れ→ 家庭裁判所の調停 不調 → 審判決定 を経てようやく遺産分割が確定することになり、大変な時間と労力、精神的な負担を強いられることになり、その結果、家族・親族間がバラバラに崩壊するリスクも内包しています。
◆遺言書を残すことの大切さ・・・
最近、相続のトラブルの防止は、財産を持つ者の義務であり、そして財産を自由にかつ適切に分けることは、財産を持つ者の権利でもあるという考え方が一般的になりつつあります。これは、相続をめぐる紛争の急増が大きく影響しています。
相続人同士で話し合い、納得の上で解決していけば何の問題もありませんが、こじれると上述の通り、遺産分割の確定までに大変な時間と労力、精神的な負担を強いられることになり、家族・親族間がバラバラに崩壊することもあり得ます。
これらの「争族」を回避するためには、遺言はもっとも有効な手段といえます。遺言者が遺言書を残すことは残された遺族への思いやりというものです。
尚、遺言書には下記の通り3種類ありますが、遺言書作成にあたり各相続人の遺留分(民法により、遺族の生活安定や最低限度の相続人間の平等を確保するため、相続人{被相続人の兄弟姉妹を除く} が相続できる権利の最低保障分のことです)にも配慮する必要があります。
① 自筆証書遺言
自筆によって決められたルール(本人の署名・押印、正確な作成日付など)さえ守れば気軽に作成でき、費用もほとんどかかりませんが、パソコンで作成したり、大きな間違いがあったりすれば無効になり相続人の間で争いが生じます。また、遺言書の紛失・変造・隠蔽の恐れもあります。遺言者の死後、遺言書を家庭裁判所に持参し、検認も受ける必要があります。
② 公正証書遺言
遺言者が証人2人と立会いのもとで公証人役場の公証人に口述し、筆記してもらった後に全員が署名、押印することにより作成されます(実務は多少違います)。その原本は公証人役場に20年間保管されます。公証人役場での手続きが必要となり、費用(手数料)も発生しますが、自筆証書遺言や秘密証書遺言のように検認手続きは不要です。また、遺言者が病気などで公証人役場まで行けない場合は、公証人が病院や自宅に出張してくれます。やはり、公証人を経て公文書的な扱いになりますので、きっちりとした遺言を残すことができる最も良い方法です。
③ 秘密証書遺言
自分で作成した(パソコンや代筆でもOK)遺言に署名、押印したのち、自分で封入後に封印し、封書に本人、公証人と証人2人が署名・押印することによりその遺言の「存在」を公証人に証明してもらう方法(手数料が必要)です。遺言書の開封は家庭裁判所の検認が必要です。やはり自筆証書遺言と同様に内容に問題があったり、紛失・変造・隠蔽の恐れもあり、あまりお勧めできません。以上、遺言書を残すことの大切さと遺言書の種類を解説してきましたが、相続人の間の「争族」を回避するためには遺言書(特に公正証書遺言)を残すことをぜひオススメします。お気軽にご相談ください。