平成25年4月号
教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度(平成25年度税制改正)
前月末、無事平成25年度税制改正法が成立しました。改正法には相続増税、住宅や企業減税の拡充など様々な制度とともに、祖父母などが孫に教育資金をまとめて贈与した場合に1,500万円まで贈与税を非課税とする制度が盛り込まれています。
日本国民が保有する金融資産はその約6割を60歳以上の人が占めていますが、政府はこのお金を早期に次世代へ移転し経済社会を活性化する必要があると考えています。さらに安倍首相は教育再生も重要課題と考えており、この両側面を受けて子の非課税制度が導入されたということになります。
制度の成立を受けて、早速、信託銀行などを中心に金融機関でも新しい信託商品の取り扱いを開始しました。
祖父が孫へ教育資金を贈与する場合には、本来親が支払うはずだった教育費が軽減されることになるため、結果的には親が恩恵を受けることになります。今回はこの「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度」について確認してみたいと思います。
◆今までの教育資金の贈与の取り扱いは?
今までも、子や孫の教育費や生活費などを、親や祖父母など扶養義務者が負担したとしても贈与税が課税されることはありませんでした。ただし、通常必要と認められるものに限られ、教育費や生活費として必要な都度に孫に渡す必要があります。したがって、教育費に充てるものであってもまとめて子や孫に渡すことはできませんでした。例えば、大学4年分の学費として500万円の現金を祖父が孫に一括で渡してしまったら、その時点で贈与があったとされ、その年に他の贈与がなかったとしても53万円の贈与税が課税されることになってしまいます。
◆新制度の内容
この非課税制度を利用すると、平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に、親や祖父母など直系尊属から、「信託受益権を取得した場合」、「贈与を受けた金銭を教育資金として金融機関へ預入れた場合」などには、1,500万円までの金額が贈与税の非課税とされます。ただし、親や祖父母が、直接子や孫に教育資金を贈与するだけではこの制度の適用はありません。教育資金管理契約に基づき信託会社などの金融機関へ信託または預入をする必要があります。また、子や孫が預金の払い出しを受けるためには、教育資金の支払いに充てたことを証する領収書等をその金融機関へ提出しなければなりません。
教育資金の範囲は後述のとおりですが、「学校等以外の者に支払われる教育資金」について非課税となる金額は1,500万円のうち500万円までとなります。
贈 与 者 | 直系尊属(父母・祖父母) |
受 贈 者 | 30歳未満の者 |
贈与財産 | <教育資金>
①学校教育法に定める学校等に支払われる入学金、授業料その他の金銭 ②学校教育法に定める学校等以外の者に教育に関するサービス提供の対価として支払われる金銭のうち一定のもの |
贈与方法 | ①贈与者と金融機関との間の教育資金管理契約に基づき、受贈者が信託受益権を取得
②直系尊属から贈与により取得した金銭を教育資金管理契約に基づき金融機関に預入れ 等 |
限 度 額 | 1,500万円(上記「贈与財産」②に該当する金銭は500万円を限度とする) |
期 間 | 平成25年4月1日~平成27年12月31日までの間に拠出されるもの |
手 続 き | ①贈与時:「教育資金非課税申告書」を取扱金融機関を経由して受贈者の納税地の税務署長に提出する
②払出時:預金を払い出す場合には、教育資金の支払いに充当したことを証する書類を金融機関に提出する |
契約終了 | ①受贈者が30歳に達した場合
②受贈者が死亡した場合 ③信託財産・預金額がゼロになった場合 |
◆非課税となる教育資金の範囲
非課税の対象となる教育資金は、次に掲げる金銭です。
(1) 次に定める学校等に支払われる入学金、授業料、入園料、施設設備費その他の金銭
① 幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高等専門学校(学校教育法1条)
② 専修学校(学校教育法124条)
③ ①及び②以外で学校教育に類する教育を行うもの(学校教育法134条)
④ 保育所その他これに類するものとして一定の施設(児童福祉法39条)
⑤ 認定こども園
⑥ ①②に相当する外国の教育施設等
(2) (1)に定める学校等以外の者に、教育に関するサービス提供の対価、施設の使用料その他の受贈者の教養、知識、技術又は技能の向上のために直接支払われる金銭として文部科学大臣が財務大臣と協議して定めるもの
なお、(2)の金銭について非課税のなる金額は総額500万円までとなります。
◆手続き
一般的な手続きの流れは次のようになります。
(1) 信託の場合
(2) 直接贈与を受ける場合
◆相続税対策として
贈与税の負担なしに資金を子や孫に移転することができるわけですから相続税対策としては有効です。結果的に1,500万円分の相続財産が減少することになり、孫への贈与であれば相続を一世代飛ばす効果も得られます。
なお、この制度は受贈者ごとに適用を受けることができます。例えば孫が複数いる場合には、その孫ごとに1,500万円の贈与をすることができるため、その場合には相続税の減税効果も大きくなります。
◆注意点
・複数の贈与者から贈与を受けた場合にもこの制度を利用することはできますが、その場合でも受贈者(子や孫)が受けられる非課税金額は総額で1,500万円までとなります。
・祖父や親が金融機関等に信託等した資金は、30歳までに教育資金として使い切らなければなりません。子や孫が30歳になった時点で、非課税の適用を受けた資金のうちに使い残しがある場合には、その金額が30歳になった年の贈与税の対象となってしまいます。
・金融機関等によっては、信託報酬や事務手数料が発生する場合があります。無料キャンペーン等を行っている金融機関もあるようです。詳しくは各金融機関にお尋ねください。
◆教育費の平均額はどのくらいか?
子や孫が、今後どのような方向に進むのかにより、大学卒業までの教育費の額には差が生じます。場合によっては、海外留学や大学院へ入学することがあるかもしれません。予想することは難しいかもしれませんが、文部科学省の統計が公表されていますので参考にしてください。
<幼稚園~高等学校まで>
(学校教育費+学校給食費+学校外活動費)(単位:円)
区分 | 公立 | 私立 | 換算年数 |
幼稚園 | 695,760 | 1,612,554 | 3年 |
小学校 | 1,824,558 | 8,791,938 | 6年 |
中学校 | 1,378,533 | 3,836,070 | 3年 |
高等学校 | 1,090,392 | 2,768,148 | 3年 |
※子どもの学習調査(平成22年度)
<大学>
(入学料+授業料+施設設備費) (単位:円)
区分 | 国立 | 私立 | 換算年数 |
文系 | 2,425,200 | 3,862,123 | 4年 |
理系 | 5,187,381 | 4年 | |
医歯系 | 23,708,497 | 6年 |
※学生納付金調査(平成23年度)
※私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額調査(平成23年度)