平成25年5月号
現金の贈与はどのように行うのが正しいのか?
子供や孫に対して少しでも資金援助して上げたいと思うのが親心と言うもの。日本の貯蓄の6割以上が60歳以上の世帯に集中しているという統計も出ています。相続税のことを思い、生きている間にできる限り子供や孫に贈与をして預貯金の金額を少なくしておきたいと考える方も多いはず。しかし、多額の現金贈与をすれば贈与税という高額な税金が課されてしまいます。そこで贈与税の負担を極力抑えるために少額の贈与を毎年行う手法を採ることになります。ただ、長年自分では問題なく贈与を行っていたつもりでいても、いざ相続となった後の相続税の税務調査の際に税務署に指摘され、結局その現金に相続税が課税されてしまうといったケースがよくあります。では、後々問題とならないように現金の贈与をするにはどうしたらよいのでしょうか?確認してみたいと思います。
◆贈与税はどのように課税される?
1年間(1月1日~12月31日)に個人から贈与により財産を取得した場合において、その贈与を受けた財産の価額の合計額か贈与税の基礎控除額110万円を超えるときは、その超えた金額に対して贈与税が課税されます。なお、昭和50年から平成12年までの贈与税の基礎控除額は60万円とされていました。
(贈与税には、別に「相続時精算課税制度」がありますが、今回は説明を省略します。)
(贈与財産価額-110万円(基礎控除額))×税率=贈与税
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(注) 贈与税の税率(平成27年1月1日以後の贈与の場合)
①20歳以上者が直系尊属から贈与を受けた財産
課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | 0円 |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
② ①以外の財産
課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | 0円 |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
贈与税の課税方法のポイントとして以下の点が上げられます。
① 財産をもらった人に対して課税されること。
② 贈与の都度、贈与税額を計算するのではなく、1年間の合計額で計算されること
③ 複数の者から贈与を受けた場合であっても、その合計額で計算されること
例えば、父親から1月に100万円、同年12月に100万円の贈与を受けた場合には、年間で200万円の贈与となり、基礎控除額(110万円)を超えることとなります。また、1年の間に父親から100万円、母親から100万円の贈与を受けた場合でも、年間で200万円の贈与となり、基礎控除額(110万円)を超えることとなります。
◆贈与が無駄にならないようにするには?
そもそも「贈与」とはどのような行為なのでしょうか?民法では、贈与は「当事者の一方が自己の財産を無償にて相手方に与える意思を表示し、相手方が受託をすることによってその効力を生ずる。(民法549)」とされています。したがって、税務調査においても「双方の合意があったか」が問題となります。例えば、過去に親子間で現金の移動があった場合でも、子供が勝手に親の預金を引き出し自分の預金に預け入れていたと認められるときや、逆に親が子供の通帳を作り一方的な判断でその通帳に資金を移していたと認められるときなどは、そもそも贈与がなかったとしてその額が相続財産に含められてしまうこととなります。つまり、贈与そのものが成立しておらず、移動した金額は親の債権である、あるいは子供名義の預金でも実質的な所有者は親であるとされ、贈与税ではなく相続税の課税対象とされるわけです。
では、後々問題とならないようにするためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
① 契約書を作成する
双方に贈与の認識があったことを示す書類として、贈与者、受贈者双方の直筆の署名と捺印をした贈与契約書を作成しておくことが重要です。口頭による贈与では、証拠能力として不十分となります。契約書が後日作成されたものではないことを証明するために、公証役場において確定日付印をもらっておくことも有効でしょう。
また、毎年同額の贈与をすることが当初から決まっていると、定期金の権利をまとめて最初の年に取得したとみなされてしまう場合があります。少なくとも「今後毎年100万円を贈与する」といった文言を記載した契約書を作ってはいけません。贈与の都度、契約書を作成するようにしましょう。
② 通帳の管理・保管は贈与を受けた本人がする
受贈者自身が通帳を管理・保管していたかどうかが基準となります。資金移動後も贈与者が通帳を管理・保管しているのであれば、実質的に受贈者に資金が移ったことになりませんし、受贈者が自己の判断で使用することもできません。贈与後に受贈者自身が自己の判断で贈与資金を使い消費等をしているかどうかも判断の一つとなります。
③ 使用する印鑑は自分自身のものを
税務調査では、被相続人及び相続人の印鑑一つ一つについての確認が行われます。受贈者の通帳の届出印が受贈者自身のものであることも上記②同様に実質的な所有者の判断材料とされることになります。
④ 贈与税の申告義務がある場合には必ず申告する
贈与により贈与税の申告義務が生じた場合には、その申告期限内に贈与税申告することで、課税当局に対し贈与であることを自ら主張することになります。申告義務があるにもかかわらず、贈与税申告をしていない場合には贈与税の課税漏れが生じるため、当然課税当局の目は厳しくなるでしょう。
◆未成年に対する贈与はできない?
未成年者は年齢によってはまだ判断能力が乏しいため、そもそも贈与が成立しないと考える方が多くいらっしゃいます。確かに祖父が3歳の孫に現金の贈与をしたとしても「双方の合意」があったとは言えないでしょう。しかし、未成年者が法律行為を行う場合には、その法定代理人の同意を得ることが必要とされています。つまり、法定代理人(親権者)である親の同意があれば未成年者であっても贈与を受けることができるのです。贈与契約書を作成する際には、受贈者の親権者として親が署名捺印しておくことが重要です。
◆完全な贈与でも相続税が課税される場合がある?
たとえ生前に贈与をしていたとしても、それが相続の開始前3年以内になされた贈与である場合には、相続税の課税対象とされてしまいます。贈与税は相続税の補完税であり、本来は相続税課税を課税すべきとの考えがあるためで、相続の直近3年間の贈与に限っては相続税に課税し直すことになります。たとえ年間110万円以内の贈与をしていても、それが相続開始前3年以内なら相続税が課税されてしまうわけです。ただし、この適用があるのは被相続人から相続や遺贈によって財産を取得した者に限られ、相続時に財産を取得しない孫や子供の配偶者などが贈与を受けた財産には適用されませんので、相続が近々発生すると見込まれる場合には贈与する相手を相続人以外の者にするなどの工夫が必要です。
~国税不服審判所~ |