平成26年3月号
不動産の親族間売買にはどのような問題があるか
親子間など親族間で不動産の売買をする場合には注意が必要です。まずは「売買代金をいくらにするのか」という問題です。第三者間であれば当事者で合意した金額が時価と考えられ、売買代金についてとかく問題になることは少ないのですが、親族間の売買では様々な思惑から意図的に売買代金が一般的な取引価額に比較し低額または高額に設定されることがあるため、場合によっては時価との差額が「みなし贈与」として贈与税の対象になる恐れがあります。
また親族間の売買では、各種譲渡所得の特例制度がその立法趣旨から外れることなどから、適用できない場合もあります。
この2つの注意点について確認してみたいと思います。
◆みなし贈与の問題
個人が、著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合には、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額は、その譲渡者から贈与により取得したものとみなされます。しかし、その著しく低い価額がいくらなのかについては明確な規定はありません。利害関係のない第三者間において行われた売買であれば、通常はその成立した売買価額が通常の取引価額として認められることになりますが、これが親子、夫婦など親族間などで行われた売買の場合において、その売買価額と時価とにズレがあるときは、「著しく低い価額」とみなされ、その差額に対し贈与税の課税が行われるリスクがあります。
では、親族間などの売買における適正な取引価額、いわゆる時価とはいくらなのでしょうか。一般的に時価といっても公示価格、基準地価、相続税評価額、固定資産税評価額、鑑定評価額などいくつかの価額が存在します。
相続税評価額や固定資産税評価額は、公示価格のそれぞれ80%、70%を目安として設定されており、これらの価額による売買は著しく低いとみなされる恐れがあります。公示価格や基準地価は各地域の一地点の価額であり、直接売買価額として利用するのは好ましくありません。できれば不動産鑑定士等による鑑定価格を採用したいところです。もしくは、路線価額を80%で割り戻した金額を売買価額とすることも一つの方法でしょう。なお、相続税評価額による親族間の土地の売買が「著しく低い価額」には当たらないとした判例(平成19年8月23日東京地裁)も存在します。個別的な判断がなされグレーな部分もありますが、親族間などでの売買価額の設定は慎重を期す要があります。
◆優遇制度が受けられない
特殊関係者に対して居住用家屋を譲渡した場合には、以下の規定の適用を受けることはできません。
① 居住用財産の3000万円控除(措法35)
② 居住用財産を譲渡した場合の軽減税率(措法31の3)
③ 特定の居住用財産の買換え特例(措法36の2)
④ 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法41の5)
⑤ 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法41の5の2)
また、特殊関係者から住宅を取得した場合には、「住宅借入金等特別控除(措法41)」の規定の適用を受けることはできません。
~特殊関係者とは~
① その個人の配偶者及び直系血族(父母・祖父母・子・孫など) ② その個人の親族(①の者を除く。)でその個人と生計を一にしている者及びその個人の親族で家屋の譲渡後その個人とその家屋に居住するもの ③ その個人とまだ婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者及びその者の親族でその者と生計を一にするもの ④ ①から③に掲げる者及びその個人の使用人以外の者でその個人から受ける金銭などにより生計を維持しているもの及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの ⑤ その個人、その個人の①及び②に掲げる親族、その個人の使用人若しくはその使用人の親族でその使用人と生計を一にしている者もの又はその個人に係る③及び④に掲げる者がその発行済株式等の50%超を有する同族会社その他これに準ずる関係のあることとなる会社その他の法人 |
したがって親族間であっても、それぞれが独立し生計を別にしている兄弟間や、伯叔父母と甥姪間での売買などについてはこれらの規定を適用することができます。
また、「特定の事業用資産の買換え特例」や、売買ではありませんが「固定資産の交換の特例」などの規定についてはこのような制限はありませんので、親子間や夫婦間における取引であっても適用することが可能です。
なお、別の問題として、融資を利用して親族から不動産を購入する場合には、一般的に金融機関の審査が厳しくなることも考えておかなければなりません。