平成26年5月号
配偶者は税金負担が少ない!?
配偶者は公的な制度においては、様々な優遇を受けることができます。扶養されていれば国民年金保険料の支払いが不要になったり、相手の所得税が配偶者控除などにより減少したりします。配偶者と死別や離別をした後でも、所得税の寡婦(夫)控除を受けられることもあります。
相続税や贈与税でも配偶者は優遇されています。配偶者への相続は同一世代間の財産の移転であり次世代への承継ではないこと、配偶者は財産の維持形成に貢献していると考えられること、配偶者の老後の生活保証の必要性、などの理由からいくつかの優遇制度が設けられています。相続税対策として上手に利用したいですね。
◆配偶者の相続税額の軽減
土地配偶者は通常、相続税が掛かりません。よく「配偶者は遺産の2分の1まで取得しても相続税が掛からない」という話を耳にしますが、少し間違っています。正しくは配偶者が取得した遺産について、次の2つの基準で判断します。
① 遺産のうち法定相続分までの取得が無税
② 遺産のうち1億6,000万円までの取得が無税
この①②のいずれかを満たしていれば無税となり、どちらかを越えてしまったら越えた部分についてのみ相続税が課税されます。
配偶者の法定相続分は相続人が「配偶者と子」の場合は2分の1、「配偶者と親」の場合は3分の2、「配偶者と兄弟姉妹」の場合は4分の3です。相続の多くが「配偶者と子」が相続人のケースですので「2分の1まで」という認識が一般的になっているのでしょう。
ところで、この配偶者の税額軽減の規定を最大限適用して相続税を減らすことは得策なのでしょうか。実は必ずしもそうとは限らないのです。次の例で考えてみましょう。
相 続 人 ・・・・・・・妻・長男 |
今回の相続では、被相続人の遺産1億5,000万円をすべて妻が取得するような遺産分割をすれば、上記②の基準により相続税はゼロとなります。
配偶者の取得額1億5,000万円≦1億6,000万円 ∴0 |
しかし二次相続はどうなるでしょうか。通常は次に亡くなるのは妻です。妻の遺産は相続人である長男がすべて相続することになります。長男は1億8,000万円を取得しますが、その時の相続税は4,060万円*となります。
では逆に一次相続で長男が被相続人の遺産をすべて取得した場合はどうなるでしょうか。配偶者の税額軽減は一切使えず、長男の相続税は1,840円*となります。次に二次相続で長男は妻(母)から3,000万円を取得しますが、相続税の基礎控除額3,600万円*に満たないため相続税額は掛かりません。結果として、一次相続では妻が遺産を取得せず配偶者の税額軽減を一切使わない方が、一次二次相続合計の相続税額は2,220万円も少なくなります。
(*平成27年1月1日以後の相続の場合)
相続人等の構成や遺産の内容、配偶者の財産などによりケースバイケースですが、配偶者への相続は同一世代間の相続であるため、配偶者の税額軽減の規定は二次相続への相続税の繰延べ制度、という性格を有していると考えなければなりません。もちろん配偶者の老後の生活資金は考慮すべきですが、目先の相続税だけでなく、二次相続も合わせた相続税額を計算しておく必要があります。
◆小規模宅地等の減額
被相続人の事業用の土地や居住用の土地などは、一定要件を満たすと80%の減額を受けることができます。1億円の宅地でもこの特例の適用が受けられれば課税対象額が2,000万円となってしまいます。特に被相続人が居住していた宅地については、配偶者が取得すれば無条件でこの特例の適用を受けることができます。なお、誰が被相続人の居住用の宅地を取得するかは、上記の配偶者の税額軽減との兼ね合いも含め、慎重に決める必要があります。
◆贈与税の配偶者控除
相続ではなく生前贈与でも配偶者は優遇されています。「贈与税の配偶者控除」は20年以上連れ添った夫婦間の贈与のみ認められた制度で「おしどり贈与」とも呼ばれています。配偶者から「マイホーム」または「マイホーム購入資金」の贈与を受けた場合には、2,000万円まで贈与税が無税となります。(別途贈与税の基礎控除額110万円)
この特例は相続税対策として利用できます。例えば、夫の財産総額が大きく妻の財産はほとんどない、というような場合です。生前に2,000万円分のマイホーム等を妻へ贈与することは、夫の財産を2,000万円減らすことを意味し、結果として将来の相続税額を最低税率なら200万円、最高税率なら1,100万円減らす効果があります。同一の配偶者からは一度しか適用できません。贈与のチャンスを逃さないように気を付けてください。