平成27年2月号
迫り来る富裕層包囲網(1)
資産家や高所得者にとって、日本の税金は国際的にみると高いと言わざるを得ません。それにもかかわらず更なる増税です。高い税金から逃れるため、海外脱出や資産の海外移転を目論む人も少なくありません。しかし、こういった動きをも封じ込めるべく、出国者に対する課税も毎年のように強化されています。来年度の税制改正でもまた、資産家に対する監視の目が強化され、さらには海外脱出防止のための出国税まで生まれようとしています。
◆所有する財産を毎年報告しなければならない
現在でも高所得者は毎年の確定申告の際に税務署に対して自己が所有する財産を報告しなければなりません。「財産及び債務の明細書」です。その提出義務者は、その年分の所得金額の合計が2,000万円を超える個人とされていました。義務はあっても特に罰則規定がなかったため提出しない人もいましたが、税務署からは催促の電話がしつこく来ることになります。平成27年度の税制改正では、この財産及び債務の明細書が 「財産債務調書」と名称を変え、提出義務者は、総額3億円以上財産を所有する個人又は1億円以有価証券等を所有する個人に限られることになりましたが、提出しない場合の罰則規定が設けられます。
~財産債務調書~ (1) 提出義務者(①+②を満たす又は①+③を満たす者) ① その年分の所得金額が2,000万円超の個人 ② 12月31日における財産の合計額が3億円以上の個人※ ③ 12月31日における有価証券等及び未決済デリバティブ取引等の合計額が1億円以上の個人※ (2) 提出時期 翌年3月15日まで (3) 対象財産 土地・建物、現金、預貯金、有価証券、貸付金、10万円以上の貴金属・書画骨董・家庭用動産など (4) 対象債務 借入金、支払手形、未払金、未払税金 (5) 記載事項 財産の種類、数量、価額、所在、銘柄等 (6) 財産の金額 時価(見積価額も認められる。) (7) 主な罰則※ 財産の記載漏れ・・・その財産に関して所得税の申告漏れが生じたときは過少申告加算税が5%加重 提出しない場合・・・1年以下の懲役又は50万円以下の罰金 ※平成28年1月1日以後に提出するものから適用 |
また、既に平成24年度税制改正において、年末時点の国外財産の合計が5,000万円超の人に対する「国外財産調書」の提出が義務付けられています。海外の不動産、海外の銀行や証券会社にある口座などが対象になります。
~国外財産調書~ (1) 提出義務者 12月31日における国外財産の合計額が5,000万円超の個人 (2) 提出時期、記載事項、財産の金額、主な罰則については上記「財産債務調書」と同様です。 |
なお、国外財産調書に記載した国外財産については、上記の財産債務調書への記載は不要です。
◆海外に出国するだけでかかる出国税
有価証券等を1億円以上有する人が海外に出国すると、その有価証券等を売却したものとみなされ、含み益に対して所得税が課されることになります。香港など非課税国に出国してから有価証券等を売却することによる課税逃れを防止するための制度です。課税されても出国から5年以内に有価証券等を売却せず帰国すれば課税が取り消されるほか、出国時に担保を提供すれば最長10年間納税が猶予され、その間に帰国すれば所得税は免除されます。
しかし、この制度の怖いのは相続人が海外に居住している場合です。有価証券等を1億円以上有する人が亡くなり、海外居住者がその有価証券等を相続等すると、相続税はもちろん、含み益に対する所得税も課税されてしまいます。もっともこの所得税は被相続人の債務となり相続税の計算上控除できるのですが、全体の税負担は増加です。贈与した場合も贈与税と所得税のダブル課税となります。海外居住者への生前対策としての株式贈与は難しくなりました。
~国外転出をする場合の譲渡所得等の特例~ (平成27年7月1日以後の出国又は相続贈与) 対象者は①及び②の両方の要件を満たす者 ① 出国時における有価証券、匿名組合出資持分の価額及び未決済デリバティブの決済に係る利益の額の合計額が1億円以上である者 ② 出国の日前10年以内に国内における居住期間の合計が5年超である者 |