平成27年6月号
便利で簡単、一般社団法人
節税対策や相続対策のために会社が作られることは一般的となっています。所得税と比較した法人税率の優位性や所得分散効果などを狙ってのものです。通常会社といえば株式会社が頭に浮かびますが、一般社団法人を利用するとより自由かつ効果的に対策を実行することができる場合があります。
◆どうやって作る?一般社団法人
一般社団法人といっても設立に何か難しい手続きや許可が必要な訳ではありません。公益を目的とする会社にしたいなら細かい要件を満たしたり、認定を受けたりする必要がありますが、そうでなければ株式会社を作るのと変わらないのです。しかも設立費用は株式会社を作るよりも安く、司法書士報酬を合わせても20万円でお釣りが来ます。基金(株式会社でいう資本金)はゼロでも構いません。もちろん決まり事もあります。設立時は社員(株式会社でいう株主)を最低2人、理事(株式会社でいう取締役)を最低1人決めなければなりません。同じ人が社員と理事になれるので最低2人いれば設立できます。定款、登記が必要であることや、設立後毎期社員総会(株式会社でいう株主総会)を開かなければいけないことも株式会社と同じです。
◆会社という財産に対して相続税がかからない
一般社団法人も株式会社と同じように様々な事業を行うことができますし、理事や従業員に対して給料だって支払えます。利益が出れば株式会社と同じように法人税が課されます。では、なぜ相続対策に一般社団法人を利用するのでしょうか。その一番の理由は「持分がない」ことです。例えば、株式会社を資産管理会社として利用した場合、「株式」という財産が発生します。仮に父が全株式を保有する資産価値が1億円の株式会社の場合、父が亡くなるとその株式の評価額1億円が相続税の課税対象となります。しかし、これが一般社団法人である場合、そもそも父には持分も出資もないわけですから相続する財産もないことになります。つまり相続税がかからないのです。
◆株式のように分散していくことがない
一般社団法人が利用されるようになる前も株式会社などを資産管理会社として利用していました。上述のとおり株式は相続税の対象なので、父は保有する株式をせっせと生前贈与しました。なるべく効率よくするために複数の子やその家族にも生前贈与をします。残った株式が父の相続の際に複数の子に承継されることもあります。気付いた時には会社の株式が多数の株主に分散している状態になります。こうなると親族間で争いが勃発したり、株式買取りのために多額の資金が必要になったりしてしまうのです。
一般社団法人ではどうでしょうか。そもそも持分・出資がないわけですから、株式分散のような心配はありません。社員が亡くなっても社員たる地位が相続されることもありません。通常、社員総会において社員1人につき1議決権を有し、その社員の決め方は定款で自由に定めることができます。社員の総意がなければ入社できないように定めておけば社員がいたずらに増えていくこともありません。
◆跡継ぎをゆっくり決められる
後継者を誰にするかはオーナーの悩み。株式会社なら経営安定のために後継者に全株式を承継させたいところです。しかし、相続や贈与での一括承継は税負担を考えると困難で、子がある程度若いうちから贈与などにより移転していく必要があります。しかし、誰が後継者としてふさわしいかの判断は、子が若いうちには中々できないものです。
一般社団法人なら、後継者を社員や理事にするだけなので、子の成長を待ってから選ぶといったことも可能です。既に株式会社を有しているならば、一般社団法人を持株会社として利用することで同じ効果を得ることができます。
◆注意しなければならないことは?
・一般社団法人は剰余金を分配(配当)することはできません。会社から金銭を得るためには、理事となって経営に参加し報酬を受けるしかありません。
・一般社団法人が解散した場合の残余財産の分配についても、あらかじめ定款で社員に帰属する旨を定めることはできません。ただし、解散後の社員総会において誰に分配するかを決めることができます。
・個人の財産を一般社団法人に寄付、遺贈することによる相続税や贈与税の回避を防止するため、そのような行為があった場合には、一定の場合を除き一般社団法人に贈与税や相続税が課税される規定が設けられています。
・一般社団法人には持分という概念がなく、社員総会の議決は社員の頭数です。したがって、何かのきっかけで外部の人間が社員になることで、簡単に会社を乗っ取られる危険性があります。あらかじめ定款に、親族以外の人間は社員になれない旨を定めておくなどの対策が必要です。