平成27年8月号
葬式費用と相続税
葬式に要した費用は相続税の計算上控除することができます。葬式費用は債務ではないので、相続人などに法律上の負担義務があるわけではないのですが、人が亡くなれば通常発生するものなので、税務上は債務と同様控除が認められています。日本消費者協会によると、葬式費用の全国平均は190万円弱(2014年)ですが、最高額は1,000万円、最低額は10万円と、地域や亡くなった方の立場などによって大きな幅が生じているようです。どのような費用を相続税計算上控除できるのか確認してみたいと思います。
費用の内訳 | 平均額 |
通夜からの飲食接待費 | 33.9万円 |
寺院への費用 | 44.6万円 |
葬儀一式費用 | 122.2万円 |
合 計 | 188.9万円 |
※合計のみの回答があることなどから各費用の合計と合計額が一致しません。
◆控除できる費用
(1) 葬式のための費用
通夜、仮葬式、本葬式、埋葬・火葬、納骨、遺骨の会葬などに要した費用です。宗教や地域的慣習によってその様式は様々ですが、死者を葬る儀式が対象とされます。
(2) 葬式に際し施与した金品で社会通念上相当なもの
寺院等に対して支払う読経料、お布施、戒名料などで、故人の職業や財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものが対象となります。
(3) 葬式の前後に生じた費用
葬儀後にふるまう飲食代、会葬御礼、旅費、会場使用料、供花代(相続人等が負担したもの)など。葬儀社や運転手への心付なども対象です。領収書がないものは日付と金額などをメモに残しておくのが良いでしょう。
(4) 死体の捜索、死体若しくは遺骨の運搬に要した費用
海や山で遭難した場合の捜索費用や、海外など遠方で死亡した場合の遺骨の運搬費用などが対象となります。
◆控除できない費用
(1) 香典返戻費用
香典はもともと遺族が弔問者から受け取ったものとして取り扱われ、社会通念上相当額であれば贈与税は非課税とされています。そのお礼としての贈答は遺族が受け取った香典の中から行われるものと考えられるため控除は認められていません。なお、葬儀の参列者全員に配られる会葬御礼は上述のとおり控除対象となります。地域によっては葬儀当日に会葬御礼を行うのみで、これが香典返しを兼ねていると思われるケースもあります。このような場合には、お礼品の単価によっては実質的に香典返戻と判断される可能性がありますので注意が必要です。
(2) 墓地、墓石、仏壇の購入費
墓地や墓石、仏壇、仏具などの財産は相続税が非課税とされています。よって遺族がこれらを購入した場合も、その費用の控除を認めず相続税計算上除外しています。したがって、生前に墓地や墓石、仏壇、仏具など購入、整備しておくことが相続税の節税になります。相続した現金を使って購入しても控除できないのですから、生前に購入しておいて相続税を非課税にしてしまおうということです。
(3) 初七日法要費用、四十九日法要費用
宗教によって違いがありますが、法要の費用は控除が認められません。初七日、四十九日、一周忌と法要は続きますが、これらは供養であって葬式とは異なるためです。しかし、初七日法要費用については微妙な取り扱いとなります。葬式当日に行われることが多いためです。明確に分離されていない場合は、葬儀の一環で行われたものとして実務上はまとめて控除をしてしまうのが一般的です。場所を移して初七日法要が行われたケースでは、控除が認められなかった事例(平成10年6月12日裁決)もあります。
なお、四十九日に納骨をした場合でも、その納骨費用だけは控除してしまっても問題ないでしょう。
(4) 遺体の解剖費用など
葬儀とは関連がないので控除が認められません。
◆葬儀を複数回行ったらどうなるか
葬式前に仮葬式を行った場合や、告別式を居住地と住所地の双方で行ったような場合もその両方が控除対象となります。家族による葬儀の後、被相続人の地元にて議員や会社関係者、親族、知人が参列して行われた偲ぶ会が、死後ちょうど49日目に行われたにも関わらず葬式費用として認められた事例(平成26年1月10日裁決)もあります。死者を葬るために行われた儀式であるかどうか分かれ道となります。
◆社葬を行うとどうなる?
会社役員の場合、社葬を行う場合があります。会社への貢献度や地位、死亡事情に照らし相当なものであれば、その費用は会社の経費として処理することができます。反面、相続税計算上は控除できないこととなりますが、その会社の株価を下げる効果があります。税務以外も総合的に見てメリットが大きければ、社葬も選択肢になるのではないでしょうか。