平成24年8月号
消費税増税と不動産
消費税増税を柱とする社会保障・税一体改革関連法が8月10日、民自公などの賛成多数で可決、成立しました。これにより、消費税率は平成26年4月に8%、平成27年10月に10%へ引き上げられることになります。企業の方でも増税前の駆け込み需要を当て込み、早くも商戦が始まっています。特に住宅市場では低金利に加え、消費税増税が控えていることもあって「買い時である」と考えている人が多く、展示場等の来場者も上昇傾向にあるようです。しばらくは一定の需要増加が見込まれそうで、SMBC日興証券の試算によると住宅、自動車を中心に駆け込み需要が合計で10.6兆円に上るということです。もちろん増税後には反動による消費の落ち込みが待ち構えていますので楽観できるわけではありませんが。
では、消費税増税が不動産取引にどのような影響を与えるのでしょうか?
◆消費税の課税対象
消費税は「日本国内において、事業者が事業として対価を得て行う、資産の譲渡・貸付、役務の提供」に対して課税されます。したがって不動産の売買も課税対象となりますが、そのうち土地の譲渡については非課税とされています。
課税されるもの |
課税されないもの |
・建物の建築代金
・建物の譲渡代金 ・不動産業者への仲介手数料 ・司法書士等への報酬 ・金融機関への融資手数料 ・土地造成費用・整地費用 |
・土地の譲渡代金
・ローンの返済金・保証料 ・火災保険料 ・登録免許税 ・不動産取得税
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また、消費税は事業者が事業として資産の譲渡等をした場合が課税対象となりますので、個人が売主としてマイホーム等を譲渡した場合も課税対象とはなりません。したがって個人が売主の場合には、仲介手数料や司法書士・金融機関への手数料などを除き、今回の消費税の増税は直接的な影響はありません。
◆増税前に契約をしたら?
消費税の増税前、例えば平成26年3月31日までに契約をしてしまえば、旧税率(5%)の適用になるのでしょうか。本来、消費税は契約締結時ではなく、引渡時が課税時期となりますので、たとえ増税前に契約したとしても、モノの引渡しが増税後であれば手遅れとなります。ただし、例外があります。請負工事に関する契約の場合は、新税率の施行日の6か月前までに締結すれば引渡しが新税率の施行日後であっても旧税率が適用されることになります。例えば住宅請負工事であれば、平成25年9月30日までに建築請負契約を締結すれば、新税率が施行される平成26年4月1日以後の引渡しであっても消費税率は5%ということになります。なお、既存住宅はもちろん、分譲マンションや建売住宅などについてはこの取り扱いはありません。
◆増税後の住宅減税制度は?
3%から5%に引き上げられた平成9年の国土交通省の建設着工統計を見てみると、増税後の平成9年は持家のケースで前年比16万5000戸(▲25.66%)も減少しました。平成9年は山一證券が経営破たんしており、景気の急速な悪化の影響もあったと思われますが、今回も消費税増税・駆け込み需要の反動は少なからずあるでしょう。政府でもこういった消費税増税後の影響を軽減するための施策が検討されています。予想されるのは「住宅ローン減税」の拡充や「住宅エコポイント」などのような補助金といったところでしょうか。
◆今が買い時?
これ以上下げられないところまで下がった金利、長期間底ばい状況にある不動産価格、そして増税。よほどの思い切った減税や補助金がない限り、確かにタイミングとしては「今が買い」のように思えてしまいます。しかし、反動による景気の落ち込みにより増税後の地価が下がるかもしれません。そうなると消費税の増税分を土地価額の下落分で吸収できることになります。もっというと地価が下がったところで消費税増税の影響が少ない中古住宅を個人から購入、なんてことも考えられます。どう判断、予想するか、難しいところです。