平成24年10月号
オーナー経営者様へ
◆自社株式承継の基礎知識及び実践
■オーナー経営者様へ ご質問
オーナー経営者の方へ自社株式の承継について2つ質問があります。
□1 自社株式の評価額は把握されていますか?
□2 自身の遺産について遺言書を書かれていますか?
→1つでも「いいえ」の場合は事業継続について問題が生ずる可能性があります!
□1 自社株式の評価額を把握していない場合
【問題が生ずる理由】
自社株式は上場会社以外の場合は換金化が難しく、自社株式にかかる税金は当然金銭で支払わなくてはならないので納税が難しくなります。資本金が1000万円の会社であっても内部留保が高まり評価額が1億円を超えることは珍しいことではありません。自社株式はオーナー経営者の方が所有する他の財産と合算され相続税が計算されるため自社株式にかかる税金だけで数千万円もしくは数億円になることがあります。
【その結果どうなるか】
換金化できない財産に多額の納税が生じた場合はどういう結果を招くでしょうか。考えられる方法は下記のとおりです。
① 相続人が相続財産等を売却し納税に充当する
② 相続人がオーナー会社から納税のための金銭を借りる
③ 相続人がオーナー会社に自社株式を売却し売却代金を納税に充てる
④ 自社株式を国に物納する(その後配当金を国に支払う)
上記いずれの方法でも会社から資金が流出することは間違いありません。
【では何をすべきか】
会社の資金流出が承継によりおこるとなれば、スムース株式承継も経営の一環と言えると思います。オーキスでは株式に係る承継税対策として下記の方法をご提案しております。
① 株価引下げ及び引下げ後の生前贈与
② 従業員持株会利用
③ 株式贈与税・相続税納税猶予制度の利用
④ 持ち株会社などを利用した株式承継など
またオーキスでは上記を組み合わせた「創業者利益還元型承継」というスキームがございます。創業者に内部留保を還元することで株価下げを実行し事業承継者に株式を承継するというものです。詳しくは下記のとおりです。
【創業者利益還元型承継とは】
創業者の方が長い期間かけて築いた内部留保をいったん創業者の方に還元(換金)し、内部留保をなくした状態で後継者に承継する方法です。創業者の方に今まで頑張られた利益が還元されるため創業者の方の満足度は高く、かつ、承継者の方の税負担も従来より大幅に軽減されます。現役で頑張られた分、引退後の生活を充実して過ごしてもらうためのプランです。後継者の方にも夢を持ってもらえる方法です。上場した会社は市場流通により株の換金化が可能で承継も行いやすいですが、非上場会社は換金化・承継という部分で上場会社とはかなり差があるのが現実です。ご興味のある方は一度オーキスにご相談ください。
□2 遺言書を書いていない場合
【問題が生ずる理由】
遺言書がない場合は相続人間で分割協議を行い話し合いで取得財産が決定すれば特に問題はありませんが、決定しない場合は「調停分割」「審判分割」という段階を経て、最終的には「訴訟」という形となります。その際に基準となるのが民法に規定されている法定相続分(下記参照)となります。下記のとおり法定相続分は子供が複数いる場合、事業承継者、非事業承継者を問わず平等で下記【事例】にあるとおり事業用資産を事業承継者に引き継げない場合があります。
相続順位 | 相続人 | 相続分 | 詳細 |
第1順位 | 配偶者 | 1/2 | 子が複数いる場合の相続分は均等 |
子 | 1/2 | ||
第2順位 | 配偶者 | 2/3 | 親が複数いる場合の相続分は均等 |
親など | 1/3 | ||
第3順位 | 配偶者 | 3/4 | 兄弟が複数いる場合の相続分は均等 |
兄弟 | 1/4 |
【事例1】
家族構成:父(オーナー経営者)母(死亡)長男(事業承継者)次男及び三男(非事業承継者)
相続開始:自社株式を相続開始10年前に長男に贈与(贈与時の時価3千万円)し相続開始時点の自社株式の時価は長男が事業を承継後に上昇し1億円となっている。相続開始時点の父の遺産は2億円(内1億円は工場(会社所有)の敷地である)
問 題:法定相続分を前提とした遺産分割額はどうなりますか?
(「相続時点財産」+「相続人生前贈与財産※」△債務 )×法定相続分(「 2億 」+「 1億(3000万円ではない)」△0)× 1/3 =1億円
→次男・三男は1億円ずつ取得(工場敷地は非事業承継者が取得)。長男は生前贈与の株式のみ。
上記のケースでは次男又は三男が工場敷地を取得するため会社が非事業承継者に対し地代を支払わなくてはなりません。
【その結果どうなるか】
非事業承継者である相続人に法定相続分を主張された場合は事業用資産を事業承継者に引き継げなくなる可能性があります。会社の事情を知らない親族が事業用資産を有することになるため会社の経営状態に関係なく支出額が決定され経営が不安定となる要因が生ずることとなります。
【では何をすべきか】
遺言書を作成することで非事業承継者の取得分を法定相続分の半分に減らすことが可能です。被相続人の意思を守るものが遺言書であるのに対し、相続人の権利を守るものが遺留分となります。子供が相続人の場合の遺留分は法定相続分の半分となります。よって非事業承継者に遺留分を主張されたとしても法律的には法定相続分の半分のみ渡せばよいことになります。
【事例2】
上記事例で前提を遺言書ありに変えた場合はどうなるでしょうか?
長男に遺産を全部相続する旨の遺言書がある場合の遺留分相当額はどうなりますか?
(「 2億 」+「 1億(3000万円ではない)」△0)× 1/6 =5000万円
→次男・三男が遺留分減殺請求をおこせば各5千万円ずつの取得とすることが可能です。ただし上記の遺言書がないケースと比較すると非事業承継者の取得分は半分となります。これによって長男は生前の株式と遺産の1億円(工場敷地)を取得することが可能とります。
結論:遺言書がなければ事業用資産である工場敷地を非事業承継者に取得される可能性がある。
【まとめ】
経営者の役割 → 事業を継続すること
事業承継における紛争が生ずると・・・
① 事業用資産の売却をしなければならない!
② 後継者が議決権の2/3を確保出来ない!
③ 多額の相続税が発生する!等
よって経営が不安定化し事業継続が困難となります。
「事業承継における紛争を回避すること」は経営の一部であり経営者の役割と言えます
【プラスワン】
好ましくない相続人への株式移転に対する売渡請求
平成18年の会社法改正により、相続や合併等で株式を取得した者に対して、会社がその株式を売り渡すように請求できる旨を定款で定めることができます。株式を譲渡制限株式とした場合でも、相続や合併等の事由による株式の移転は制限できなかったため、会社にとって好ましくない者に株式が分散することを阻止できませんでしたが、平成18年会社法改正により定款で定めることによって、会社が相続等で移転した譲渡制限株式について売渡請求を行うことが可能になりました。このことにより会社の経営を安定させることができるようになりました。
【アンケートにみる実態】
①8%が相続紛争を経験
(親族内で事業承継を経験した後継者を対象)
②個人資産総額の中に事業用資産(自社株式・事業用土地等)の占める割合は68%
③遺留分の減殺請求がされると事業用資産を後継者に集中できない割合50.7%
④遺留分の減殺請求がされると約7割の経営者が持株割合3分の2を確保出来なくなる
⑤親族内承継で事業承継を目的として生前贈与がなされた割合は17.7%
⑥中小企業オーナー経営者の11.7%が遺言書を作成
⑦遺言があった場合に限定すると遺留分の減殺請求を起こされる確率は10.2%
(帝国データバンク調査)(中小企業庁アンケート)より